朝ドラ『おちょやん』が、2週までの放送を終えた。
各種メディア記事の中には、「低迷」「地味」などの批判もあるが、9話までの見られ方には、今後のヒットを示唆する要因が3つあった。
視聴データが明らかにしたドラマの可能性を考える。
世帯視聴率は低いが・・・
『おちょやん』初回は、視聴率18.8%。
多くの記事が、「7作ぶりの20%割れ」「苦戦発進」などと書き立てた。
その後も、第一週は17%台に落ち、第二週は上昇したが18%台止まり。
「低迷」「地味」「近過去にない危機感」などの声も出た。
しかし平均視聴率17~18%台でとやかく言うのは如何だろうか。
序盤2週の数字を言うなら、朝ドラの流れを一変させた『あまちゃん』(2013年上期)も当初2週は20%に届いていない。後半で勢いを増した『ひよっこ』(17年上期)も、朝ドラの新境地を拓いた『エール』(20年上期)も今ひとつだった。
そもそも関東2700世帯を対象に視聴率を測定するビデオリサーチの視聴率20%には、±1.5%の誤差がある。
つまり18~21%というのは、誤差の範囲内で、実績として大差がない可能性が残る。
データで評価する場合は、もう少し精緻にやってもらいたいものである。
ヒットの可能性1:展開の妙
当稿執筆時点で入手できる初回から9話までの視聴データを精査してみよう。
インテージ「Media Gauge」で接触率を30秒単位でトレースすると、各話はグラフのような軌跡を描く。
初回はそこそこ注目され、まずまずの結果だった。
ところがオープニングの笑えないドタバタで、明らかに視聴者に逃げられた。
しかも2話で大きく数字を下げたところをみると、1983年の『おしん』のような「貧困」「理不尽」「不憫」で、引いてしまった人が少なくなかったようだ。
ただし3~5話で徐々に人気を取り返している。
主人公・千代を演じた子役・毎田暖乃の名演と、台本や演出の妙で徐々に視聴者を惹きつけ始めていたのである。
さらに舞台を大阪・道頓堀に移した第二週。
6~9話の全てが接触率右肩上がりと盛り上がりをみせた。千代の名演に加え、岡安の女将シズ・篠原涼子、シズの母・宮田圭子、女中頭かめ・楠見薫、喜劇界のアドリブ王・星田英利など、多彩な存在が化学反応を起こして、めくるめく世界を魅せている。
ヒットの可能性2:惹きつける力
テレビ番組の面白さは、途中で見るのをやめる人の出現率で測ることが出来る。
例えば『おちょやん』初回を、15秒毎に脱落した人をカウントすると、15分間の平均流出率は0.05%を超えていた。高齢者の視聴が多く、時計代わりとも言われる朝ドラは、夜帯のドラマと比較すると、流出率は低い方だ。
これを初回から9話までで比較すると、低流出率の出現頻度が次第に高くなっているのがわかる。
初回は0.025~0.04%の15秒が、全60回中29回あった。また特に流出が低い0.025%未満が3回だった。およそ半分で視聴者のこころをキャッチしていたことがわかる。
ところが2話以降、低流出率の出現回数が増えて行く。
第一週は4~5話で、全体の4分の3が良い場面だったことがわかる。しかも0.025%未満という視聴者が釘付けとなったシーンの頻度が高まっている。
千代の子役の奮闘ぶりが、データでも裏付けられたと言えよう。
第二週は、視聴者釘付けシーンが急増する。
道頓堀に舞台を移し、魅力的な場面や多彩な役者の名演ぶり、さらに時々出てくる当時の舞台の再現(劇中劇)に視聴者が目を奪われていたことがわかる。
8~9話に至っては、全体の8割以上が名シーンの連続だ。
接触率が右肩上がり続きだったデータと符合する。
ヒットの可能性3:魅せる演技
もう一つ見逃せないのが、出演者の魅力的なやりとりだ。
第1週では、千代の子役が絡むシーンが圧巻だった。例えば2話での、学校でのお弁当をめぐるシーン。隣家の男の子に先生がうまく話を持っていき、千代におはぎを譲らせたシーンに人々は惹きつけられた。
3話では、千代の機転で鶏が売れた場面。
4話では、千代が弟の切ない気持ちを初めて知ったシーン。
そして5話では、先生や隣家の老婆との別れがやるせなかった。またラストでの父親とのやりとりと、最後のセリフ「うちがアンタラを捨てたんや」では、視聴者は完全に釘付けになっていた。
さらに第二週では、流出率0.03%未満のオンパレードとなる。
6話冒頭のドタバタ舞台口上は、第一週同様必ずしも成功していない。ただし千代が岡安の女将・シズや女中頭・かめと初めて対峙したシーンは息を飲む瞬間だった。
7話での千代と一平の初めての出会いや劇中劇(天海天海一座)も傑出していた。
8話では、劇中劇「人形の家」を見る千代、その台本を持った千代と一平のやりとり、そして天海を迎えに行った千代と天海の突然死などが好成績だ。
さらに9話では、橋の上での千代と一平の切ないやりとりと、シズから馘を言い渡され、翌朝かめに礼を言って出ていく千代の振る舞いは見ごたえがあった。
以上のように、同ドラマは回を追うごとに、テレビ画面に視聴者を張り付けている。
展開の妙、巧妙な演出による魅せる場面、そして出演者たちの卓越した演技と3要素が揃って来るところみると、例え序盤の視聴率が振るわなくとも、次第に視聴者を集めていく可能性が高い。
『あまちゃん』『ひよっこ』『エール』のように、スロースタートでも中盤から後半にかけて勢いを増すパターンとなる可能性が高い。
今後の展開に期待したい。
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