阪神が4番佐藤輝明内野手(23)の9回決勝弾で劇的勝利を収めた。難攻不落の佐々木朗希に6回無失点に封じられながら、2三振に痛恨の走塁ミスと精彩を欠いていた男が、最後の最後に悔しさを晴らす1発。日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(40)は打線全体の「仕掛け続ける姿勢」を評価した上で、若き大砲の反発力に感嘆した。【聞き手=佐井陽介】

阪神の佐藤輝明選手が、野球の醍醐味(だいごみ)をあらためて教えてくれました。2三振しても、痛恨の走塁ミスをしても、ゲームが続く限りは取り返すチャンスがある。若いタイガースにとって大事なマインドを、もう1度呼び起こしてくれた気がします。

0-0の9回表1死で迎えた4打席目。現地の肌感覚を正直に振り返れば、ZOZOマリンには「また三振だろ」というムードが漂っていました。そんな空気をひと振りで吹き飛ばしてしまうのだから、その魅力は計り知れません。しかも、決勝弾の1球は低めにショートバウンドしようかというボール球だったから、余計に驚かされました。

相手はロッテ守護神の益田投手でした。この日は3連戦初戦。2試合を残した時点でクローザーにダメージを食らわせただけでも価値があります。その上、佐々木朗希投手と対決した一戦で勝利にまで導いたのです。底知れぬスター性を感じたのは、決して自分だけではなかったはずです。

もちろん、4回の走塁ミスはいただけません。1死三塁で二ゴロに倒れた場面。三塁走者が三本間に挟まれる間、暴走気味に三塁を狙ってダブルプレーとなりました。打者走者は基本、三塁走者が本塁側に追われているタイミングで三塁を狙うもの。逆に追われているタイミングで三塁を狙うのは明らかなミスです。それでも反省はしても引きずらずに決勝弾。誰にでもできる芸当ではありません。

チームとしても、この日は難攻不落の佐々木朗希投手を相手に、仕掛け続ける姿勢が見られました。2回は糸原選手がディレード気味のスチールに成功。中野選手は6回に二盗を成功させた後、なおも1死二塁から三ゴロの送球間に三塁を陥れました。ベンチも積極的にランエンドヒットを選択。さらに各打者は160キロ前後の直球と140キロ後半のフォークを懸命にファウルにしていました。

得点こそ奪えませんでしたが、佐々木朗希投手を6回90球で降板させた「形」には一定の成果があったように感じます。ナイン、ベンチともに突破口を開こうと必死でもがいた末の1-0勝利。今後の巻き返しへ、1つのきっかけになるかもしれません。(日刊スポーツ評論家)