いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、吉祥寺のピザ店「トニーズピザ」です。
50年以上続くアメリカンスタイルのピザを堪能
三鷹に住んでいたころは、家族でたまにお邪魔していたのです。しかし、その記憶のなかに出てくる息子は、まだ小学生だったんですよね。
彼はいま26歳なので、つまりは単純計算で15年ぶりくらいの再訪ということになります。もうそんなに時間が経ってしまったのか。
とはいえ、ひさしぶりに足を運んでみれば、古き良きアメリカを連想させる外観はあのころのまま。なにも変わっていないので、なんだかうれしくなってきました。
どこの話かって、吉祥寺のピザ屋さん「トニーズピザ」(TONY's PIZZA)のこと。新宿を背にして井の頭通りを吉祥寺駅へ進み、京王井の頭線の高架手前の路地を左折してすぐ右側にあるお店です。
左側の窓に手書きの白い文字で"Since 1968.10.1 50 years"と書かれていますが、50年どころか今年で52年ということになりますね。
ちなみに、この窓の向こう側がピザを焼くスペース。マスターにはニューヨークでの修行経験があると聞いたことがありますが、つまりはそのころからスタイルを変えることなく現在に至るわけです。
もちろん店内も、正統的なオールド・アメリカン・スタイル。もちろんBGMも1950年代のオールディーズですし、映画『アメリカン・グラフィティ』のなかに紛れ込んでしまったような気分にすらなれます。
伺ったのが14時ごろだったため、店内には男性1人客と、男性2人のグループのみ。2人組は赤ワインを楽しんでいるようで、とてもうらやましい限り。ここのピザとワインは、抜群の相性ですからね。
でも仕事があったためワインは諦め、ランチタイムサービスの「ピザセット」をオーダー。ほどなく登場したサラダをいただきながら待っていたら、やがて懐かしのピザが登場しました。
そうそう、これだ! 思わずニヤついちゃいましたよ。
丸いピザを見慣れている方は驚かれるかもしれませんが、ここのピザは1/4サイズなんです。とはいえ非常に大きく、ボリュームは満点。
なにしろチーズで表面が完全に覆われており、具材はほとんど見えないのです。ちなみにそのチーズは、オランダ産エダムチーズ、デンマーク産マリボチーズ、ドイツ産のモッツァレラチーズが使われているのだとか。
そんなチーズの層はとても厚く、伸びも抜群。カリッと焦げたサイド部分も香ばしく、チーズの味わいを存分に楽しめるわけです。
ナイフで切り分けながら一口食べてみたら、懐かしさで胸がいっぱいになりました。決して大げさではなく、15年前とまったく変わらない味だったからです。
濃厚なチーズの旨みがたまりません。切り進んでいくと現れる具材は、ひき肉、玉ねぎのみじん切り、ピーマンといたってシンプル。でも、無駄なものが入っていないからこそ、チーズとの理想的な相乗効果が生まれるのです。
やっぱり、ここのピザは好きだなぁ。
15年も経てばピザのトレンドも変わり、いまでは本場さながらのナポリピザなども手軽に食べられるようになりました。もちろんそういうピザもおいしいですけれど、それらとトニーズのピザを比較するのはナンセンス。
どれだけ時代が変わろうともアメリカン・スタイルを貫き通すトニーズのピザは、"トニーズのピザ"という圧倒的な個性を備えたオリジナルだからです。ひさしぶりに味わって、そう強く実感しました。
残念だったのは、マスターにお会いできなかったこと。尋ねてみたら、お昼時を過ぎたため近所に出かけているとのことだったのですが、お顔は拝見したかったかな。
でも変わっていないことは確認できたし、次は友人と一緒に伺って、ピザとビール、もしくはワインを楽しむことにしよう。
●トニーズピザ
住所:東京都武蔵野市吉祥寺南町1-6-9
営業時間:11:30~21:00(2:00 L.O.)
定休日:月曜(祝日の場合は翌火曜)
印南敦史
この著者の記事一覧はこちらからの記事と詳細 ( 中央線「昭和グルメ」を巡る(58) たっぷりチーズ! アメリカンなピザを貫く名店「トニーズピザ」(吉祥寺) - マイナビニュース )
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