二〇一九年十月二十四日、坂本勝利(かつとし)さん(82)の農園に家畜保健衛生所の職員がやってきて、残っていた十三頭の牛に次々に薬物を注射した。
坂本さんは、その様子を見続けた。「一頭が倒れるとほかの牛は心配そうに寄ってくる。何が起きているのか、わかっているんだね。だから最後のお願いだと。穴に運ばれる牛の姿をほかの牛に見せないでくれと頼みました」
牛の姿が消えた農園では、二〇年一月から除染が始まった。十年近く人の姿がなかった農園に草刈り機やトラックのエンジン音が鳴り響き、砂煙が舞っている。復興へのつち音でもある。
「もう私は年だからね」
「次の世代の話だけれど」
何度も断りながら、坂本さんは未来の話をした。
除染が終わったあとの農地では、庭木などを育てて売ってはどうかという。
「風評被害を考えれば、野菜やコメを作っても難しいでしょう。それに、もともとうちは苗屋ですから。また新しい牛を飼って、そのふんで苗木を育てるんですよ」
農園のすぐ近くには夜ノ森の桜並木があり、原発事故前は春になると大勢の人でにぎわった。その桜は先人の篤志家が植えたものだという。坂本さんも同じように農園に桜をたくさん植えて、桜の園をつくりたいとも思う。
夢を実現できるかどうかは、除染にかかっている。そうした現実的な視線は失っていない。「本当の復興は、立派な建物や施設をつくることではなく、被害を元に戻す復旧の先にあるんですよ。だから形式だけではなく、きちんと基準値を下回る除染を国に求めていく」と坂本さん。
「でなければ、死んだ牛は浮かばれません」
=おわり
(坂本充孝が担当しました)
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